予防と健康レポート
1.はじめに
アスベストについて、数年前よく報道されていたが実際何が問題なのかそのときには、あまり興味がなくわからなかった。しかし、予防と健康管理ブロックでアスベストについてのビデオを見て、アスベストの問題点が大まかにわかり興味がわき詳しく調べてみようと思った。
2.選んだキーワード
アスベスト、悪性中皮腫
3.選んだ論文の内容の概略
「アスベストと悪性中皮腫」村山武彦
現代社会とアスベストの利用について、アスベストは2005年のクボタの報告以来、工場の労働環境だけに限らず、公害あるいは環境問題として捉えることに極めて重い現実性を与えることになった。アスベストは自然界に存在するにもかかわらず、非常に加工しやすいため断熱材などに広く使用されてきた。人類による利用は紀元前からだが、産業革命以降、使用量は急増した。代表的な物質には、クロシドライド、アモサイト、クリソタイルである。アスベストによるリスクの広がりについて、労働環境とともにリスクが考えられるのは一般環境である。工場周辺、幹線道路周辺などの屋外環境とともに、吹き付けアスベスト、保温材などの室内汚染も考えられる。また、アスベストの累積量の推計では、1990年代にはドイツを抜いて、日本はアメリカに次ぐ世界代2位のアスベスト消費国になっている。リスクの程度の見積もり方について、ほかの物質とは違い、アスベストによる影響の中には悪性中皮腫という特殊な疾患があり、すでに統計的なデータが得られている。この特性を生かし、疫学的な統計モデルを用い将来予測ができる。医学分野の専門家とともに行った研究結果によれば、胸膜部位に発生する悪性中皮腫で死亡する男性は、2000年からの40年間で約10万人と推定される。日英間の中皮腫による死亡者数の年間平均で比較すると、日本での女性の死亡者数の割合は、イギリスに比べて2倍程度になっている。より詳細な検討をするには、2国間の統計方法や、年齢階層別の構成人数の違いなどを考慮する必要があるが、日本における死亡者数のうち女性の割合が高い可能性が示唆されている。ただし、悪性中皮腫の診断は難度が高いとされている。そのため、より精度の高い診断結果を追求し、患者の暴露履歴を可能な限り、正確に把握して、アスベストと悪性中皮腫との関係をより詳細に分析していく必要がある。
「良性の胸膜病変」斉藤芳晃
石綿曝露によって生じる良性胸膜変化としては、胸膜プラーク、良性石綿胸水、円形無気肺、びまん性胸膜肥厚があげられる。このうち、胸膜プラークは、石綿曝露歴があったことを証明する医学的所見であると理解されている。また、良性胸膜疾患としてびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水、円形無気肺があるが、びまん性胸膜疾患および円形無気肺は、必ずしも石綿曝露によって起こる疾患でないため石綿関連胸膜病変と診断するには石綿曝露作業の内容、石綿小体などの確認などが必要になる。これらの良性胸膜疾患は、ときに肺機能障害をおこし、治療の対象・労災補償の対象になるため注意を要する。
胸膜プラークは壁側胸膜の肥厚像で、石綿関連病変の中で最も頻度が高い。胸膜プラークは、石綿曝露後15−30年で出現し、その石灰化は曝露から20年以上経過してから起きることが多いとされている。胸膜プラークによる肺機能低下は軽度である好発部位は後外側壁の下半分、前胸壁の気管分岐から上方にかけての高さの部位、旁脊椎領域下部、横隔膜ドームなどで、心嚢にも見られる。胸膜プラークの検出には胸部X線写真より胸部CTの方が明らかに優れている。胸膜プラークの確認の重要性は、有所見者は無所見者に比べ石綿の累積曝露量が多く、中皮腫のリスクは無所見者より高いと推測されていること、および有所見者の場合で、X線写真で1型以上の所見があり、かつCT画像で繊維化所見が認められるものについては、発癌の発症のリスクは2倍以上になると言われていることなどがあげられる。胸膜プラークは、肺がんあるいはびまん性胸膜肥厚や良性石綿胸水の業務上の認定にあたって、過去の石綿の職業曝露を説明する重要な医学的所見だとみなされている。
びまん性胸膜肥厚は臓側胸膜の病変であるが、通常は壁側胸膜にも病変が存在し、両者が癒着している。びまん性胸膜肥厚は石綿以外の原因で発症することもあり、石綿曝露の客観的情報がなければ、他の原因で発症する胸膜肥厚との区別は困難である。職業曝露とみなすためには、概ね3年以上の職業による石綿曝露年数が目安になる。びまん性肥厚があると肺活量、全肺気量、静脈コンプライアンスが低下するなど拘束性障害を起こす。進展すれば慢性呼吸器不全となり治療の対象になる。
良性石綿胸水について、石綿暴露によって生じる非悪性の胸水を良性石綿胸水といい、石綿曝露歴があること、胸水の存在が確認されること、石綿曝露以外に胸水の原因がないこと、胸水確認後3年以内に悪性腫瘍を認めないことの4項目が満たされる疾患を言う。良性石綿胸水の石綿初回曝露からの潜伏期間は10−30年とされている。胸水の持続期間は平均3ヶ月で、約半数は自然消滅するといわれている。多くは、自覚症状を認めない。良性石綿胸水は胸水消失後約半数にびまん性胸膜肥厚を残し、その結果、肺機能障害を起こしてくる。また、経過中に合併してくる頻度の高い悪性中皮腫の鑑別が問題になっている。
円形無気肺について、胸部X線写真などで円形もしくは類円形を呈する直径2.5−5cm大の末梢無気肺である。臓側胸膜の病変が主体で、石綿暴露が原因となり、良性石綿胸水後に発生する場合が多い。自覚症状に乏しいが、咳、胸痛、呼吸困難を訴えることもある。
労働行政からみた石綿関連病変について、石綿プラークに関しては、石綿を製造し、または取り扱う業務に従事していた者で、両肺野に石綿による胸膜肥厚が在る者に対して、石綿にかかわる健康管理手帳が交付され、年2回の健康診断を受けることができる。両肺野に不整形陰影があるものは、塵肺であることより、管理2または管理3とみなされれば、塵肺検診によって肺機能障害の程度の評価を受けられる権利を有する。びまん性胸膜肥厚に関しては、石綿曝露労働者に発症したびまん性胸膜肥厚であって、次の1,2のいずれの条件にも該当する場合は業務上の疾病として取り扱われ、療養の対象になる。
1.胸部X線写真で、胸膜の厚さについては、最も厚いところが5ミリ以上あり、広がりについては、片側にのみ肥厚がある場合は壁胸膜の二分の一以上、両側に肥厚がある場合は壁胸膜の四分の一以上あるものであり、著しい肺機能障害を伴うこと。
2.石綿曝露作業への従事期間が3年以上あること。
良性石綿胸水については、石綿曝露労働者に発症した良性石綿胸水が業務上の疾病として取り扱われるか否かについては、石綿曝露作業の内容および従事歴、医学的所見、療養内容などを調査のうえ、本省で協議することになっている。
3.考察
今回のアスベストと悪性中皮腫についての論文とビデオから、アスベストはアスベストを扱っていた工場の労働者はもちろん、その周辺の住民までも巻き込んだ非常に規模や被害の程度の大きな問題であることがわかった。特に、なぜここまで大きな問題に拡大したのかということについては、国とアスベストを使用していた企業のこの問題への対応が原因であった。1970年代には、アスベストが中皮腫の原因になることがわかっていた。しかし、国はこの時点でアスベストを使用していた企業の利益を優先し、アスベストに関して何の規制、対策も講じることをしなかった。そのために、1996年の実際の規制までアスベストの使用がされ続けた。また、アスベストを使用していた企業、今回のビデオに出てきたクボタの場合であると、1975年にはアスベストの有害性を認知し、アメリカでアスベストを研究していたセリコフ博士の研究所まで社員を派遣していたにもかかわらず、アスベストの使用をし続けていた。アメリカやヨーロッパでは、1970年代からアスベスト使用に関する法律などつくり、人への健康への影響を中心に考え、アスベストの使用量を減らしていったのとは対照的である。アメリカにおいては、ビデオに出てきた、アスベストを研究し、その危険性を訴え続けたセリコフ博士の存在が大きいと考えられる。アスベストは便利で危険性などが全く考えられていなかった時代に、その有害性に着目しアスベストの危険性にアメリカ社会に気がつかせた功績は大きい。日本のアスベストの一人当たりの使用量は世界で一番多く、使用されたピークはアメリカやヨーロッパなどよりも遅い。さらに、中皮腫が発症するまでに30〜40年発症までかかることがあり、日本で中皮腫の患者が増えるのはこれからであると推測される。胸膜プラークが胸部X線で見えたときには、アスベストが関連していることが容易にわかるが、びまん性胸膜疾患、円形無気肺などが認められたときには、胸膜プラーク、石綿小体、石綿繊維の確認などが石綿関連胸膜病変の診断に重要になる。これらの確認が、今後の医療現場で増えてくると思われ、アスベストという物質の存在を医師はしっかりと頭に入れ診断しなければならない。また、アスベストのように、幅広く使われ有害性の存在が後になり知られ、その対策が遅れてしまうようなことはあってはならない。そのためにも、これからの医師は、セリコフ博士のように有害性のあるアスベストのような身近な物質を見つけたなら、その危険性についての研究をして、社会に訴えていくのが責任であると考える。
4.まとめ
今回のレポートを通じて、アスベストによる悪性中皮腫の責任は明らかに国と企業にあることがわかった。今後アスベストのような物質による被害を防ぐには、迅速な対策が必要である。また、医師も今後増えるであろう、アスベストによる中皮腫の患者の診断に気をつけなければならない。